見えない力

先月、忙しくていっぱいいっぱいだった時期。
エネルギー切れたので、ちょっと冷凍スパゲティでも食べようかなー、と、開封して電子レンジに入れた。


待ち時間の間、最近の運動不足と長時間のデスクワークで固まった体をほぐすべく、軽くストレッチとかしてみたりして。
で、それが段々エスカレートして、たまたまヒザの調子も良かったので、テニスの素振り(もちろん手には何も持たない)になっていった。


フォアハンドストロークが苦手な理由は、利き手側なのでどうしても腕力で打ってしまっているから、ということはわかっていた。
何度もコーチに指摘されてるし。
でも、わかっちゃいるけどやめられない。


だから、ちょっとイメージトレーニング的な感じで、体の回転で遠心力を使って打つ練習を繰り返した。


ラケットヘッドを上にするように構えて、腰から回して肩、肘、手、とついてくるように回転させ、そのままの勢いで振り抜く。
ラケットは上から重力に任せて下ろしていけば、自然に勢いが付いて、体の回転でちょうどいい位置に来る。はず。
と、極力力まずに回転運動で打つフォームを意識して練習した。


しかし、どうしても力みグセがあるので、なかなか様にならない。
力抜く、遠心力、力抜く、遠心力、と心の中で唱えていたら、小学生時代の記憶が蘇ってきた。


それはある日の給食の時間。
理由は忘れたが、早く給食を食べ終わりたい活発な男子児童が、配膳してもらう時点からもうあせりまくって、給食係に早く早くとせかしていた。
その場で足踏みするほどの勢いで。
やっとのことで、全部のメニューを受け取ると、自分の席に戻るべくすごいスピードで振り返った!


言うまでもなく、お盆の上の皿は全て遠心力ではじけ飛び、中身が散乱した。
もちろん牛乳瓶も吹っ飛んだ。
教卓の前あたりはちょっとした惨事になっていた。


蒲田屋は何やってんだと呆れつつ、これが遠心力ってやつかー、と変なところで感心しながら眺めていた。
他人事でごめんなさい。


そんなこともあったっけ。
なるほど、遠心力を上手く使えば力まなくても大きな力を出せるってことだよな。
しかし、そうは言ってもなかなか難しい。
力抜いて、遠心力、力抜いて、遠心力……とやっていたら電子レンジから温め完了を告げる電子音がした。


最近の運動不足ですっかり息の上がった蒲田屋は、呼吸を整えながらスパゲティを電子レンジから取り出し、皿に開けた。
内袋を捨て、食卓に着こうと皿を両手で持ったまま何気なく振り返った。
力まずに遠心力を利用しながら。


スパゲティが宙を舞った。
冷蔵庫の前あたりはちょっとした惨事になっていた。


その犠牲によって、何かを掴んだかどうかは復帰してみないとわからない。