ヤック デカルチャー

「ヒマだな」
「ヒマですね」
「こんな時だからね」
久しぶりに顔を合わせた 3人の男が時間を持て余して雑談を始めた。


「それはわかるんだけど、別に俺らは普通に仕事してていいんじゃないか?」
「うーん、被害にあった人たちが辛い思いをしてるのに、僕らが脳天気にバラエティとか出るわけにもいかないと思いますよ」
「そういうのは自粛しろって言われてんじゃん」
「ああ、あれな。カブとか温玉とかやめろってやつ」
「なんですかオンタマって」
「温泉タマゴじゃねーの? よく知らんけど」
「オンギョクじゃなかったっけ? なんで玉子になるんだよ」
「ギョクは玉子のことだろ」
吉野家ですか」


「でもよ、だからって大した被害に遭ってない俺らまで落ち込んでる必要はないんじゃないか?」
「ごまかしたな」
「ごまかしましたね」
「でもまあ、確かに、特別なことはしなくても、いつも通りにしてたいって気持ちはオレもあるな」
「一緒に暗くなってたら、元気出す人いなくなっちゃいますね」
「そうだ! それだよ! 俺らはなんか、あれだ、元気が、出すから、みんなを、頑張って、その、」
「落ち着け」
「気合いが空回ってますね」
「アタマ悪いんだから無理すんなって」


「でもとにかく、今のこのモヤモヤを何かにぶつけないと収まらねえよ」
「そうは言っても、みんなが自粛してるこんな時に派手なことなんてできないだろ」
「世の中から嫌われますよ」
「なんでだよ! 頑張れって言うのがいけないのかよ」
「言い方の問題じゃないですか?」
「俺は、楽しいことは楽しく言いたい。元気出せは元気に言いたい」
「元気にって、どうするんだよ。でかい声で叫ぶのか? 世界の中心あたりで」
「歌う」
「「はぁ?」」


「言いたいことを元気に言ったら歌になるような気がするんだ」
「それはそうかもしれませんけど、カブオンギョクは自粛ってさっき」
「いや、そうでもないかもしれないな」
「え?」
「ニュースでよくシューベルトがどうのって言ってるじゃないか。シューベルトって確か音楽家だよな」
「前にクイズ番組の問題であったな」
「そう。ってことは、音楽が何か大事な役割を果たすかもしれないってことだ」
「そう言えば僕、新聞でグレイがなんとかって見ました」
「マジで? うおぉ TERUさんパねぇ」
「なんか歌っていいような気がしてきたな」
「してきましたね!」


「よし、歌うぜ!」
「でも、どうやってみんなに聞いてもらうんですか?」
「前にインターネットのラジオとかいうのに使った機材があったはず」
「それをパクりま……借りましょう!」
「BGM は昔の CD のカラオケ版を使おうぜ」
「歌詞はどうするんですか?」
「そのままでいいだろ! 要は気持ちだ!」
「新しい歌詞が作れるほど賢くないしな、オレら」


「はい、スタンバイ OK! 行きますよ!」
「来いやぁ!」


流れ出すイントロ。歌い始める 3人。


♪ドンマイ ドンマイ ドンマイ ドンマイ 泣かないで
涙なんかは 似合わない……


無告知のゲリラライブにもかかわらず、偶然聞きつけるリスナー。
この状況で歌っているバカがいると話題になり、広まっていく。


♪不謹慎 不謹慎 俺達は
打たれ強さは どんなときも 負けやしないさ
人生 人生 人生 愛で生きてる…………