茶髪

今日、ウーロン茶で洗髪するという、たぶん珍しい体験をしてしまった。
その成り行きを書いてみる。


体調不良から回復したことにしたので、雨や欠席で先月ほとんど行けなかったテニススクールに行くことにした。
おかげでたまりまくっていた振り替えを消化するべく、本来のクラスの前の時間のクラスも取って、2コマ連続で受講することにした。
だから、いつもより早い時間にスクールに行かなくてはいけない。


最近、昼夜逆転気味だった蒲田屋にとってはそこそこの早起きが要求されたが、なんとか起きることができ、まずはシャワーを浴びた。
これからスポーツして汗だくになる予定ではあるが、蒲田屋は起きた後にシャワーを浴びる習慣なので仕方ない。


まずは体にお湯を浴びせ、目を覚ましつつ気合いを入れる。
洗髪する前に、頭にお湯をかけ、そのまま少し流して軽く洗う。
シャンプーを手に取り、軽くシャワーのお湯を含ませ、頭につけると同時にシャワーのお湯を止める。
そのまま洗髪し、泡を流すためにシャワーを再度出す。
一瞬だけお湯が勢いよく出たが、次の瞬間、マンガのような勢いでお湯の流れが減衰し、まったく出なくなった。
あっけにとられた。


慌ててシャワーの給湯レバーを何度も操作するが、お湯はまったく出てこない。
蛇口も同様にダメ。
なんだこれは? 断水か? と思ったところで、水道管工事をしていることを思い出した。


しまった、もしかして、今日は工事の影響で断水する日だったか? いや、記憶では明日以降だったはずだが……と訝りながら、冷蔵庫脇に張ってある工事のお知らせを確認に行く。
さすがに全裸でうろつくのはためらわれたので、腰にはバスタオルを巻いた。
もちろん、頭は泡だらけだ。


工事のお知らせによれば、やはり今日は断水する日ではない。
おかしいな、どうしてこうなった、と考えを巡らせていると、インターホンが鳴った。
モニター付きのインターホンなので一瞬ためらったが、外からこちらの姿が見えるわけではないことを思い出し、出た。


「はい」
「すみません、先ほどビニールパイプが抜けてしまいまして、お宅様はいま断水しています」
「でーすーよーねー」
「2、30分ほどで直りますので、またご連絡いたします」
「割と危機的状況なので可及的速やかに御願い申し上げ奉ります」
と言いたいところだったが、冷静を装って「はい、お願いします」とだけ告げた。


そうか、30分後か……そもそも起きる時間がぎりぎりだったから、のんびり待ってるヒマはないな。
その間にできることはやっておくしかない。
と、意外と冷静に状況を判断し、とりあえず腹ごしらえをした。
裸バスタオル泡頭で。


食べ終わっても連絡がないので、普段は風呂上がりにするヒゲ剃りをした。
裸バスタオル泡頭で。


この時点で 30分経っていたが、いまだに連絡はない。
試しに水道の蛇口をひねってみるが、一滴たりとも水は出ない。
そういえばうち、水道も電化してたからタンクに溜まってる分は水出す方法あるんじゃないのか? と気付き、給湯器の取扱説明書を探し始めた。
裸バスタオル泡頭で。


そうこうしているうちにさらに 10分経ったが、やはり連絡はない。
ちなみに、取扱説明書によると、非常時にホースを接続して取水することはできるようだが、通常使用時のように蛇口やシャワーから水を出すことはできないようだった。
時間はもうぎりぎりで、このまま待っていては間違いなく間に合わない。
もはやシャワーは諦めて、他の手を探すしかないと考え、次善の策を必死に考えた。
裸バスタオル(以下略)で。


出た答えは、飲料用に買いだめしてあるウーロン茶で洗い流す、だった。
その解に至った過程は省略するが、その時点で最良の判断だったと信じている。信じないと切ない。
そうと決まれば、悩んでいる暇はない。
台所に行き、2リットルのペットボトルを持ってきた。
裸(以下略)で。


風呂場に再度戻り、ウーロン茶を洗面器に 500ミリリットルほどあけ、しばし逡巡した後、意を決して頭を洗面器に入れ、泡を流した。
全裸で。


少し苦労したが、何度かすすいでいるうちに泡は全部落ちた。
すでに 50分ほどが経過し、目に見える形の泡はほとんどなくなっていたせいもあるが。
一通り流して、タオルで頭を拭いてみると、意外にも洗い上がりがさっぱりしていて驚いたりもした。
ほんのり茶っ葉の香りがするのが個人的には気になったが。


こうしてひとまず事なきを得た。
得たのか?


まあ、とりあえず、テニスのレッスンには 10分遅れぐらいで間に合った。
さすがに定刻とはいかなかったが、こんな想定外のトラブルに見舞われた状況では上出来だろう。
余談だが、2コマ受講したレッスンは好調でとても充実したものであった。
近頃愛用の帽子が、こんな形で役に立つとは思わなかった。


教訓:非常用に備蓄するのは水が吉


レッスン後、帰宅して速攻でシャワーを浴びたのは言うまでもない。